DRMについて(2)〜DRMなぜ必要?ユーザー側の不平と出版社の言い分

電子書籍の話題に付きものなのが、DRM(Digital Right Management)だ。「DRMなんて無い方がいい」と思っておられるユーザーはたくさんいると思う。それはそのはず。DRMが施されていなければ、電子書籍でも紙媒体の書籍同様に友人間での貸し借りが行えるし、端末を問わず、どのデバイスでも読書を楽しむことができる。ユーザーにとっては、DRMが無いことのほうがメリットは大きい。
ではなぜこれだけDRMが無いことのメリットが大きいのに、DRMが必要だと言われているのか?

ユーザー側の不平

まず簡単な例からDRMの必要性を見てみよう。先にも述べたが、DRMが施されていることにより電子書籍の貸し借りができないようになっている。電子媒体の場合、本を貸すとなると、結局は相手にファイルを渡すことになる。「本を貸す」ではなく、複製したものを渡すことになるのだ。これでは、紙媒体での本の貸し借りとは意味が違う。こういったファイル渡しなどしても、相手の端末ではファイルを再生できないようにするのがDRMの役割なのだ。
でも、このDRMには問題点がある。それは、お金を払ってファイルをDLした人が、DLした端末以外に自分が持っている別の端末でそのファイルを再生しようとしても再生できないということだ。例を挙げると、PCでDLした電子書籍を、スマートフォンでは再生できないと言った場合がある。これでは、せっかくお金を支払って手に入れたのに、自分のモノになったとは言い難い。この点に、ユーザー達は不平を唱えているのだ。その他にも多数、ユーザーがDRMを嫌う理由がある。以下に記述したのがそうだ。

  • 紙の本のように貸し借りしたり、読み終えた後に古本屋に売りだすことができない
  • 使用できる端末に代数制限がある
  • 端末が変わると書籍も再度購入する必要がある
  • DRM認証キー発行サーバがダウンした際に書籍が読めなくなることがある
  • DRMに対応した特定のソフトウェアを利用しないといけないことがあり、そのソフトウェアにバグがあったり、かなりの容量を必要としたり、対応OSが限定されたりして利用しずらい。
  • DRMにコストがかかり、そのコストをエンドユーザーが負担することになる。また、そのコストを負担しても海賊版を防ぐことはできない。

以上に挙げた他にも電子書籍に関する不満はあちこちで聞こえてきている。だが、DRMに不満が多数あるのと同様に、賛成の意見も多数ある。

出版社側・著者側の言い分

賛成意見の主の大半が出版社と著者だ。出版社はDRMがなくては、ビジネスにならない。同様に著者たちも、自分が長いスパンをかけて書き上げた作品をお金を払わずに読まれたら頭にくるだろう。出版物にDRMを施すことで、基本的には一つのデバイスでDLしたものは他のデバイスでは閲覧不可能にしている。つまり、書籍を読みたい人は一人一冊をきちんとお金を払ってDLしなければならないように制限がかかっているのである。

DRMのサービス事例〜bookendサービス/アイドック株式会社

bookendとは?

上記でユーザーが述べた不満を解決するのがアイドック株式会社の開発したbookendサービスだ。bookendとはPDF形式のデジタルブック配信ASPサービスで、PDF形式のコンテンツを保護しながらの配信が可能。マルチデバイスマルチプラットフォームを実現し、ユーザーはコンテンツをクラウド上で保管、2台で共有できる。コンテンツの閲覧時にはTwitter連携や、紙の書籍の販売ページの誘導など、書籍プロモーション機能も充実している。
これまでのDRMサービスだと、マルチなデバイスやプラットフォームではコンテンツの再生ができなかったが、bookendサービスを導入することでDLした時のデバイスやプラットフォームでなくともコンテンツが楽しめると言うサービスなのだ。bookendサービスに興味を持たれた方は「bookend/from KEYRING.NET」http://bookend.keyring.net/index.phpを参照するとよい。

bookendの特長
マルチプラットフォーム・マルチデバイスを実現

アイドックはKeyirngFLASHにおいてもMac対応のDRM(デジタル著作権サービス)を提供していたが、「bookend」ではさらにOSやデバイスを選ばず、利用できるようにWindows/Mac2010年中/iPad/iPhoneに対応する。

クラウド同期、3台で共有

bookend Desktop(閲覧・書庫ソフト)を使って、クラウドストレージによるコンテンツの同期が可能。2台までのPCで同期ができるので、自宅PC・ノートPC・iPadなどどこでも自分の書庫を持ち歩いてコンテンツを楽しむことができる。

書籍プロモーションを強力にサポート

bookendは「全文無償公開」「フリーミアム」など書籍プロモーションを強力にサポートする。DRM(デジタル著作権管理)でコンテンツの不正コピーを防止するので、期間限定の無償公開などのキャンペーンに最適だ。その他にもTwitter連携・紙の書籍の販売サイトへの誘導など書籍プロモーションを強力にサポートする。

同じコンテンツで2つの配信方法

「オンライン(ブラウザ内)閲覧」、「ダウンロード閲覧」両方に対応。同じコンテンツで2つの配信方法が可能。配信方法は2種類。ブラウザ内で閲覧できる「オンライン閲覧」とbookend Desktopを使ったダウンロード閲覧。サーバーに設置するコンテンツは一つで、2つの配信方法を実現できる。

bookendの面白ツール〜角川グループパブリッシングによるプロモーション

角川グループパブリッシングから書籍プロモーションとして、第13回角川学園小説大賞優秀賞を受賞した『"菜々子さん"の戯曲』が全文公開されている。http://www.kadokawa.co.jp/sneaker/nanako-san/このサイトでは、bookendで全文公開して各ページにTwitterのタイムラインが表示されるようになっている。読者は自由に書き込みができる。電子書籍を起点にしたコミュニティを形成して話題を提供し、コンテンツの認知を拡大する。(※全文無料公開は2010/8/3/16:00にて終了している。)

東洋経済新報社のDRM機能

書籍の購入者にPDFを提供する。書籍の購入者にbookendで同じ内容のPDFを提供する。読者はPCやノートブック、iPadなどで活用する。同時に出版社は読者と直接結びつくことができる。詳細なやり方はこうだ。書籍を購入すると、その書籍には袋閉じで一冊一冊IDが振られている。書籍購入者だけが電子書籍公開に必要なIDを手に入れられるというわけだ。これがDRMの機能を果たす。正直このメリットがわからない。紙の書籍を購入しなければ電子版が手に入らないのなら、電子書籍化する意味がないのではないだろうか。この筆者の疑問に何かよい解答があったら、ぜひコメントをいただきたい。

DRMの有効性の賛否両論

ここまでDRMに関して一通り述べたが、DRMの有効性には賛否両論ある。DRMがあるからこそ電子書籍ビジネスが成立するという意見と、DRMが無い方が電子書籍の市場が潤うという意見である。

【賛成】DRMがあるからこそ電子書籍ビジネスが成り立つ/アイドック株式会社成井秀樹氏

電子書籍をビジネスとして成立させるためには、コンテンツの流通を何らかの方法でコントロールする必要がある。それがDRMだ、とアイドック株式会社代表成井秀樹氏は言う。
一般的に著作権保護技術であると理解されているDRMは、ビジネスの面では「コンテンツの流通を管理する技術」と考える方が適切である。DRMの基礎技術をベースにコンテンツ流通の多様性を保ち、閲覧ログやトレース機能または販売への同線などで電子書籍コンテンツの付加価値を生むことが期待できるということだ。
今後、電子書籍を商品として販売する際にその閲覧権限をどう処理したらいいのか。これをスマートに解決出来たところが電子書籍市場の勝者となるだろう。要はDRMを使っていかに多様なサービスを構築するかにかかっているとのことだ。

【反対】電子書籍にDRMは本当に有効か?/ボイジャー社『マガジン航

出版社には強度なDRMをかけるほど利益があがるという考えがあるが、これは間違いであると否定するのが電子書籍販売会社ボイジャーだ。実際には、DRMのかかってないコンテンツの方が市場価値が上がり、長い目で見れば利益が上がると考えている。
この考えの根源として、Kaplan Publishingのデジタルマーケティングマネージャであるブレット・サンダスキーがDRMについて説いている。サンダスキーによると、DRMよりも顧客が友人とコンテンツを共有する選択肢を与え、それにより新たな顧客にリーチする方が得策だということだ。
この考えに同意しているのが、米Appleだ。米Appleは2010年1月6日、iTunes Storeで販売している全ての楽曲をDRMフリーで提供すると発表した。すでに手依拠している256kbpsエンコードでDRMフリーの高音質版楽曲「iTunes Plus」のラインナップが全曲に広がる形となる。

最後に

DRMについては賛否両論あり、どちらの意見が正しいのかは現段階では言い切ることができない。黒船がやってきたばかりでまだ日本の電子書籍市場は混乱期にあるからだ。色々と試行錯誤した結果、人々にとって最も快適な電子書籍の市場が形成されるようになるのだろう。iPadもまだ浸透しきっていない日本の電子書籍市場にはまだまだ可能性がある。電子書籍に関わる企業や出版社には、何事も恐れずチャレンジしてもらいたい。